宮崎辰さんは、
東京・恵比寿にある三ツ星フレンチレストラン、
ジョエル・ロブションで働く、
一流のメートル・ドテルです。
メートル・ドテルとは、
フレンチレストラン接客のいわば司令塔のこと。
本場フランスでは
シェフと肩を並べる専門職として
高い評価を受けています。
そんなメートル・ドテルの世界大会で、
日本人として初めて優勝したのが、宮崎辰さんです。
今回は接客のスペシャリスト・宮崎辰さんから
営業マンに通じるセールスマインドを学んでいきたいと思います。
メートル・ドテルに求められる技能は
非常に多岐にわたります。
まず、優雅な身のこなし。
料理をワゴンの上で切り分けたり、
ワインを注いだりといった所作を、
手際良く美しく行わなければなりません。
次に、あらゆるお客様をくつろがせる話術。
そのためには食材や調理法の知識に加えて、
時事的な知識も求められます。
さらに、
ソムリエの資格や
フランス語などの語学力まで求められるプロ中のプロ、
それがメートル・ドテルなのです。
そんなメートル・ドテルの中でも
宮崎さんに突出しているのは、
『お客様への気遣い』です。
宮崎さんは、
食事のペース、会話の盛り上がり具合などを
さりげなく観察し、
極上のタイミングで
極上のサービスを、
しかも10組同時に行うことができるのです。
しかも、
宮崎さんのサービスには
客を緊張させるような堅苦しさがありません。
リラックスして極上の時間を楽しませてくれる宮崎さんは、
常連客からの信頼も厚く、
ジョエル・ロブションには、
宮崎さんに会うために来店する人が
後を絶たないのです。
宮崎さんがメートル・ドテルを志したのは
20歳の時。
もともとはシェフ志望で、
フランスへ留学もしていたのですが、
メートル・ドテルの奥深さに惹かれ、
まだこの仕事の価値が知られていない日本で、
10年以上努力を重ねてきたのです。
ソムリエ試験のために飲めないお酒を克服し、
閉店後から始まる練習のために、
毎日始発で帰宅していた頃もありました。
現在も、予約が入れば
事前に客の好みや情報を頭に叩き込み、
食材の勉強から時事問題まで
常に情報の収集を怠りません。
しかし、
レストランにいる宮崎さんからは
そんな努力はまったく感じられず、
いたって自然で優雅な物腰なのです。
世界一のメートル・ドテルは、
見えないところで努力を重ね、
お客様にはその努力を感じさせません。
だからこそ、
『接客のスペシャリスト』なのです。
もしかすると、
一流の営業マンほど、
お客様の前と、そうでない時で、
ギャップがあるのではないでしょうか。
お客様に見えないところでは
歯を食いしばることもあれば、
額に汗してロールプレイに励むこともある。
しかし、お客様の前では
明るく朗らかに振舞い、
歓びや感動を感じて頂くことに専念する。
そんな見えない努力を重ねる人にこそ、
いつか大きな歓びがもたらされるのかもしれません。