もともと肥土伊知郎さんの家は、
秩父で江戸時代から続く造り酒屋を営んでいました。

大学を卒業後、
肥土さんはサントリーに入社して営業マンとして働いていましたが、
実家の東亜酒造の経営が悪化したため、
96年にサントリーを退社して父の会社を手伝うことに。

しかし、2000年には倒産。
その後、東亜酒造は別の酒造メーカーに売却されたのですが、
新オーナーはウイスキーに関心がなかったため、
400樽相当のウイスキーの原酒の廃棄が決定...。

しかし、
肥土さんはこの時、こう思ったそうです。

「これを世の中に出すのが自分の役目だ」と。

しかし、当時はウイスキーの消費量は減少する一方。
どの企業もこれ以上在庫を抱えたくないと言ったそうです。

ここから肥土さんのバー行脚が始まります。

「最初に決めたんです。
資本金を全部飲み尽くしたらやめようって。」

一日3軒から5軒とハシゴし、
月に20万円が飲み代に消えていく日々。

しかし、
そのバー通いも次第に実を結びはじめます。

「最初に応援してくれたのはバーテンダーさんです。
彼らはブランドではなく、味で判断してくれますから。
また、ウイスキーは売れないということを言う人もいたんですが、
実際にバーに行ってみると、モルトウイスキーが好きな人はたくさんいる。
これだけ楽しむ人がいるのだから大丈夫だ、と思えました」

『個性強いけどおもしろいね、どこで買えるの？』と言ってくれる人。
他のお店を紹介してくれる人。

肥土さんの"イチローズモルト"は
次第に評価を得ていき、今では、
「3(サントリー)、2(ニッカ)、1(イチロー)」と
称されるまでになったのです。

では、そんな肥土さんの地道な活動を支えた想いとは
一体何だったのでしょうか。

肥土さんはあるインタビューでこう答えています。

「先輩たちがつくったものを自分が売り、
自分たちがつくったものを未来の財産として残す。
この連続性、バトンタッチがなければ、ウイスキービジネスは成り立ちません。
自分の子どもたちのような原酒を世の中に出してやるのが、
自分の役目だと考えているんです。」