マダックス氏は高校時代、弟とともに
メジャーリーグのスカウトだった人物から
制球重視の投球術を伝授され、
メジャーリーグに入団、
主にリリーフとして15年で472試合に登板しました。

しかし、投手としては弟ほどの実績は残せませんでした。
奇しくもふたりは、新人先発投手として史上初の兄弟対決、
この時も弟グレッグの勝利に終わっています。

ただ、その投球術は
現役時代から高い評価を受け、
引退後は指導者としての才能が開花。
特にレンジャーズ投手陣の建て直しは見事でした。

レンジャーズの本拠地は、
狭い上に、独特のホームラン有利の風が吹く、
「打高投低」で有名な球場。

そのためか、
チーム防御率は、
2000年以降、最下位4回と低迷していました。

しかし、マダックス氏が投手コーチ就任後は、
チーム防御率4点未満を維持するようになり、
チームも2010年には11年ぶりの地区優勝を果たし、
ここ3年は地区優勝に必ず絡むチームになっています。

そんなマダックス投手コーチの素晴らしさを
日本の私たちも知ることができたのは、
ダルビッシュ投手へのある言葉からでした。

日米の野球の違いに苦しみ、
制球が定まらなくなっていたダルビッシュに、
マダックス氏は、
はじめは他の投手と同じように、
制球重視の指導をしていました。

しかし、それが呪縛になり、
ダルビッシュはメンタル的にもスランプに陥っていきました。

そんな時、マダックス氏がかけた言葉は、
「フォアボールをいくら出しても構わないから打たれるな」。

一見、今までとは真逆の言葉に聞こえるかもしれませんが、
これは少し視点を変えただけであって、
目標自体に変わりはありません。

その目標とは、
「いい投球をして点をやらないこと」です。

打たれないボール球ばかり投げても、
フォアボールを出し続ければ、勿論押し出し。

「点をやらない」ためには
結局、制球を整えるしかないのです。

しかし、この少しの“視点”の切り替えによって
ダルビッシュ投手は気持ちが楽になり、
調子を取り戻すことができたのです。