松井さんには
さまざまな伝説があります。

生まれた時にはすでに4キロ近く、
3歳で入園した保育園では
「8歳くらいに見えた」と保育士を驚愕させました。

小学生の時に野球を始めますが、
あまりに打球を飛ばすので
練習相手の兄たちに、右利きなのに左打ちに変えさせられ、
中学時代にはバットを振れば軟球を割ることもあったそうです。

高校3年、夏の甲子園での5打席連続敬遠も
かえって松井さんの名声を高める伝説となり、
その年の松井さんを巡るドラフトは大きく注目されました。

そして、見事その指名権を獲得したのが
12年ぶりに巨人軍監督に復帰したばかりの長嶋さんでした。

まさにプロ野球入りの経緯さえ伝説となる、
生まれながらの4番打者と言えるでしょう。

そんな松井さんが引退会見の際、
「一番印象に残っていることは？」という質問に対して応えたのは、
巨人で日本一になったことでも
ヤンキースでワールドシリーズMVPを獲得したことでもなく、
『長嶋さんに見守られて“素振り”に励んだこと』だったのです。

長嶋さんは自宅や遠征先のホテルの部屋で
毎日毎日、松井さんに素振りをさせ、
そのスイングの音に耳を澄ませました。

そして松井さんは
長嶋さんのただならぬ期待を全身で感じながら
ひたすらバットを振ったのです。

20年間のプロ野球人生の中では、
スランプに苦しむ時もありました。

しかし、松井さんはどんな時も、
長嶋さんの教えどおり、
“素振り”をし続けることにこだわったのです。

巨人軍の合宿所には
若き日の松井さんが何度も何度も素振りをしたために
擦りきれてしまった畳の部屋が、
今も残されているそうです。