オールド野球ファンなら誰もが鮮明に記憶している、
1979年日本シリーズの名勝負。

広島 対近鉄、両チーム3勝3敗で迎えた、
日本一を決する第7戦。
4対3でリードしていた広島ベンチは
絶対的リリーフの江夏豊投手を7回からマウンドに送り込みます。


その9回裏の緊迫した攻防を江夏のインタビューで振り返り、
執筆された『江夏の21球』。
これが「Number」創刊号の特集記事でした。

このインタビュー記事はその後も
NHK特集などのメディアで繰り返し取り上げられ、
「Number」は新しいスポーツ総合誌として
順調に売り上げを伸ばしていきました。

江夏豊投手といえば、
シーズン奪三振数世界記録保持者であり、
オールスター9連続奪三振など数々の伝説を残した昭和の大投手。

一匹狼らしい傲慢な態度でも知られる人物で、
「江夏に素人がインタビューしていい記事ができるわけがない」と
周囲の反応は否定的でした。

しかし岡崎さんは、
「Number」創刊号の特集は江夏投手をおいて他にないと決意し、
粘り強く情熱のこもったインタビューを敢行したのです。

岡崎さんは、その時の自分を振り返って
「一球一球を小学生みたいに“素直”に聞いていった」と
語っています。

文字通り一球一球、
江夏投手のマウンド上の動きを記憶して、
一つひとつ“素直”に尋ねる姿勢。

それによって岡崎さんは、
あるエピソードを江夏投手から聞きだすことに成功しています。


9回裏、ノーアウト1、3塁。
広島ベンチは2人の投手に投球練習を命じます。
誇り高い江夏投手は
「自分を信用しないのならば辞めてやる」と声を荒げます。

そこに最も親しかった衣笠選手が近づき、
「お前が辞める時は俺も一緒にユニフォームを脱ぐ」と
絶大なる信頼の言葉をかけ、
江夏投手は気を取り直して勝負に集中することができたのです。

実はこのエピソードを聞きだしたのは
2度目のインタビューの時のこと。
1度目は、この時のことは「絶対に話さない」と言われていたのです。

岡崎さんの一つひとつ“素直”に尋ねる取材が
アスリートのリアルな生き様を引き出し、
他にはない新しいスポーツ総合誌をつくることを可能にしたのです。