“歌謡曲”は
高度経済成長を遂げ、
バブル期を過ごした我が国にとって、
洋楽への憧れと、日本の唄への想いが入り混じった、
まさに雑食の文化でした。

そんな歌謡曲に、
「洗練」を注入したのが
筒美さんでした。

幼稚園時代からピアノを習い、
大学時代にジャズの洗礼を受けた筒美さんのつくる曲は、
それまでの日本にはない、
しかし非常に耳になじむメロディーだったのです。

しかも、同一人物がつくったとは思えない多彩な表現力があり、
「魅せられて」といったレコード大賞受賞曲から、
80年代アイドルのポップな曲、
さらに「サザエさん」のオープニング曲まで
筒美さんの作曲なのです。

まさに
“希代のヒットメーカー”だと言えます。

しかし筒美さんは
作曲家としてのプロ意識の強さから、
決して表舞台に出ることはなく、
少し前までは顔も知られていない存在でした。

それが30周年を機に、
ＴＶや雑誌で特集が組まれようになり、
ようやく筒美さんのヒットの秘密が
うかがえるようになったのです。

筒美さんのヒットの秘密、
それは“ヒットメーカー”への確固としたこだわりです。

きっぱりと、
「僕らみたいな職業作家は自分の好きな音楽を作ることが役割ではなく、
ヒット商品を作るのが使命ですから」と語っています。

もちろん、筒美さんのセンスは
天才としか言えないものですが、
筒美さんの音楽に対するアンテナの敏感さは、
プロの音楽家の中でも群を抜いています。

幼い頃から聴いているクラシック、
大学時代に夢中になったジャズ、
そして日本の“歌謡曲”。

さらに、洋楽にしても日本の楽曲にしても、
古いものから最近の、
あまりメディアに登場しないアーティストのものまで、
本当によく知っているのです。

いまだに、
ヒットを生み出すというこだわりを持ち、
アンテナを張っているのです。

好きなものではなく、
ヒット曲をつくる。

“希代のヒットメーカー”は
絶えず結果を出すことを
自分に課し続ける、プロ中のプロだったのです。