河野さんが八木澤商店の社長に就任したのは
震災直後のこと。

八代目である父は、
かれきに覆われた工場跡を前に
廃業を口にしましたが、
河野さんは「絶対に再建してみせる」と主張。

陸前高田市を復興させるためにも
「絶対に負けられない」と決意したのです。

とはいえ、
老舗の味を守り続けてきた製造手段は全滅。

そこで河野さんは、
今までの経営理念を封印し、
「生きる」・「暮らしを守る」・「人間らしく生きる」
という3つの方針を軸にした、「雇用を守る」闘いを始めます。

今までの蓄えでいつまで給与が払えるかを計算し、
支援を受けるために奔走。

老舗のプライドを封印して
同業他社で醸造してもらった醤油を売るなど、
奮闘を続けました。

そんな中で、
2つの奇跡が起こります。

流された大樽のひとつが発見され、
底にこびりついていた大切な「もろみ」の採取に成功。

また、工業技術センターに提供していた「もろみ」も
津波に合いながら無傷であることがわかり、
その後、培養に成功したのです。

そして昨年春、再建された工場で、
奇跡のもろみを用いた醸造が行われました。

秋の試飲の段階では
奇跡のもろみでつくった醤油は
もう2年熟成が必要とわかり、

今回は新しいもろみで醸造した
「希望の醤（ひしお）」のみの販売となりましたが、

被災地の復興にとって、
大きな追い風となったのは間違いありません。

八木澤商店のHPには、
こんなエピソードが記されています。

震災して5日ほど後に、
地元テレビ局のインタビューを受けた河野さんは、

「10年後、世界中からうらやましがられるような
美しい町に立て直したい」
と復興への情熱を語りました。

ところが周囲からは、
「これだけの人が亡くなり、行方不明となって、
食べるものも満足に手に入らない状況で、何を言っているんだ」といった
批判が巻き起こったのです。

それでも想いを貫き、語り続けた結果、
次第に周囲に想いが伝わっていったのです。

そんなこれまでを振り返って、
河野さんは次のように語っています。

「それでも、言い続ける内容は何もかわらないでしょう。
くりかえし、くりかえし、何度も言う。
それが現実になるまで」。

河野さんのこのぶれない想い。
そして、現実になるまで貫く“覚悟”。

そんな諦めない強い“覚悟”が
奇跡を引き寄せているのではないでしょうか。