当時では珍しい女社長として、
吉本興業の礎を築いた吉本さん。
しかし、その道のりは決して楽なものではありませんでした。

吉本さんの旦那さんは、
仕事そっちのけで芸に耽る道楽者。

その道楽ぶりは、芸事の世界にのめり込みすぎて、
家業の船場を廃業に追い込むほどでした。

困り者の旦那さんを抱えるなか、
さらに立ちはだかったのが姑さんとの問題。
姑さんの嫁いびりが激しく、毎日頭を悩ませていたそうです。

普通の女性であれば、
耐えられない境遇だったのではないかと思います。

けれども、ここで黙ったままでいないのが吉本さん。
芸道楽に耽るがあまり、
家業を廃業にまで追い込んだ旦那さんに対し、
ある提案をしました。

「あんさん、そないに寄席や芸事が好きでっか。
世の中で一番好きなこと、したいことはそれでっか。
それやったら、いっそのこと、
芸人さんと一緒にいて商売になる寄席をしはったらどうだす」

吉本さんのこの一言がきっかけで、
吉本さんと旦那さんは、芸の寄席経営をスタートさせます。

始まりは、第2文芸館というとても小さな会場でした。
"芸が好き"という気持ちだけで客寄せを始めた二人ですが、
中心街から離れた会場だったこともあり、会場には閑古鳥が鳴く日々…。

しかし、ここでも吉本さんは黙ったままではいませんでした。

『この厳しい環境のなか、どうしたら客が集まるのか』

来る日も来る日も客のいない状況が続くなか、
吉本さんは持ち前の根性と工夫で、この苦境を乗り越えていきます。

客の心をつかむために、
暑い日には店の前で冷たい飴を売り、
雨の日は汚れた客の下駄を洗っておく。
芸人の歓心を買うために、
芸人の汗を拭いて、かいがいしく世話もする。

さらには、人件費削減のため、
自分でできることは何でも一人で行っていたそうです。

そんな吉本さんの努力が功を奏してか、
吉本の経営はみるみるうちに拡大していきました。

"笑う門には福来る"と信じ、
どんな困難が立ちはだかっても、
機転を利かして、粘り強く経営を続けた吉本さん。

39歳という若さで旦那さんが亡くなり、
吉本さんの細腕1本で経営を支えることになっても、
決して吉本興業をたたむことはありませんでした。

いまの吉本興業は、
そんな吉本さんの存在なしには語れないのです。