敏子さんは常に、岡本太郎のいちばんの理解者でした。

太郎の何気ない言葉にいつも耳を傾け、
目を輝かせてメモをする。
そのメモを見た太郎に新しい発想がひらめき、
新たな芸術のテーマが次々に生まれていったのです。

敏子さんは、50年にわたって
芸術家・岡本太郎を支え続けました。

しかし、1996年、太郎の急死により、
2人の幸福な日々は突然終わりを告げます。
しかし、敏子さんの仕事は終わりませんでした。

1969年に、最後の仕上げを前にして、
依頼者の経済状況が悪化したため、
行方不明になっていた太郎の壁画・「明日への神話」。

敏子さんはその絵を探し回り、メキシコシティの倉庫で発見。
その修復を周囲に託して、この世を去ったのです。

では、敏子さんは、なぜ岡本太郎という偉大な芸術家に
パートナーとして選ばれたのでしょうか。

敏子さんは「歓びの天才」だったと言われています。

太郎の作品ができあがると、
「わぁー。凄い」「いいわねぇ。いい。いいなぁ」と全身で歓びを表現し、
時には涙を浮かべたそうです。

敏子さんは、こうおっしゃっています。

「一人の女がこれだけ心の底から尊敬し、慕い、
全存在を賭けているということは、
男を力づけないはずはない。
私は秘書として有能でもなく、
芸術家でもなく、
いい女でもなかったが、
あらゆる瞬間に自分のありったけのものを注いだということは
胸を張っていえる。出し惜しみはしなかった。」

こんなふうに心底尊敬され、
能力を発揮した岡本太郎の生涯は
誰よりも幸福なものだったことでしょう。