1926年生まれの茨木さんは、
終戦の翌年に二十歳を迎えました。
空襲や飢餓に苦しみ、
美しいものを美しいと言えない青春時代を送りました。

しかし、「戦後現代詩の長女」と言われたように、
素晴らしい詩を次々と生み出したのです。

詩集の中の茨木さんはいつも、
自分に厳しく、意志が強い女性です。
軍国主義から民主主義へと
世の中の価値観が180度がらっと変わった時代に、
自分の目でものを見、
自分の頭でものを考えることを徹底した女性でした

代表作「自分の感受性くらい」には、
いらだつ心も、初心を忘れてしまう心の弱さも、
すべては自分以外の何のせいでもなく、
自分で自分の感受性が守られていないためなのだ、
という厳しいメッセージが込められています。


茨木さんが70歳を超えて出版した詩集「倚りかからず」は
詩集としては異例の、15万部を超えるベストセラーとなりました。

表題作「倚りかからず」には、
できあいの思想や権威に依存することなく、
自分の二本足だけで立って生きよう、という、
70歳を過ぎてなお強靭な意志が語られ、
「倚りかかるとすれば　それは　椅子の背もたれだけ」という
痛快な言葉で締めくくられています。

そんな強い女性というイメージの茨木さんでしたが、
実生活では、夫を愛しぬいた、愛情豊かな女性でした。

茨木さんのご主人は若い頃にクモ膜下出血で倒れ、
5年ほど闘病生活を送り、
最後にはガンで亡くなっています。

茨木さんは親類に、
「看病の人生だったわね」と言われたこともあるそうです。

そんな茨木さんの、
二十歳の女性に向けたメッセージを引用します。

「愛されることばかり考えてて、
　だからとっても甘ったれですよね。
　親に対しても、友人に対しても、恋人に対しても。
　愛するというのはどういうことか、少しめざめてほしいのです。
　相手の欠点も、だめな部分も含めて
　能動的に愛するってことは大変ですけれどねえ」


何事も、自分以外の何かに“倚りかからない”。

茨木さんは、世の中を考える時も、人を愛する時も、
いつもそれを貫いた人。

だからこそ、多くの人の胸を打つ詩を残せたのです。