「太陽のサーカス」という名の新サーカス
「シルク・ドゥ・ソレイユ」。

昨年まで行われていた日本公演「ZED」で描かれたのは、
主人公・ゼッドが天と地を融合させる冒険の旅。

その中で稲垣さんは、
ゼッドを旅にいざなう水先案内人として
超人的なバトンさばきで、
神がかった演技を披露していました。

「シルク・ドゥ・ソレイユ」での公演活動。
それは、言葉もあまり通じないまま、
個性の強い同僚たちの中で、
精神と体力の限界に挑戦する日々でもありました。

実はこの間、稲垣さんは
東京と京都を往復する二重生活を送っていたそうです。

公演のない日は、疲れた身体で、
母校である立命館大学バトントワリング部の監督として
後輩を指導していたのです。

監督としての報酬は決して多いものではありませんが、
「バトンを通して授かった経験を後輩に伝えなければ」という
使命感が稲垣さんを突き動かしていたのです。

そんな多忙な生活を送ることができた理由については
稲垣さんが月刊誌『PLASMA』に大切に綴ってきた
「Dream On」という連載記事からうかがうことができます。

ある時の記事は「シルク・ドゥ・ソレイユ」創設者、
ギー・ラリベルテの宇宙旅行がテーマになっています。

ラリベルテの訪問先は国際宇宙ステーション。
旅行代金は3500万ドル(約31億円)。
目的は地球が直面している
水の問題を全世界に訴えることだったと言います。

ギー・ラリベルテはもともとは
ストリートで火を噴く大道芸人でした。

記事の中の稲垣さんの言葉の一つひとつには
壮大な夢を見て、強い使命感のもとにその夢を実現した、
創設者への畏敬が溢れています。

またある時は、体調を崩しながら
舞台に立った時のことを振り返って、
印象的な名文を残しています。

「奇跡を感じる出来事は
　逆境から生まれたものが多く存在するはずだ。
　そしてそれを乗り越えるための「気」が
　どこからやってくるのかと考えると、
　「自分とは別の次元からの大きな後押しを感じざるをえない」と。

この言葉を読む時、
人間には把握し得ない「超越的な力の存在」とともに
あることに思いが至ります。

「奇跡」は、
逆境へと自分の身を投じた人に訪れる。

その事実です。